ここでは、いくつかの発達障害のパターンを紹介していきます。
これまでに院長が実際に経験した症例を紹介していきます。個人情報に配慮して、個人が特定できないようにところどころ脚色しています。なお、ここでは知的発達症(=知的障害、IQ70未満)、自閉スペクトラム症(いわゆる自閉症やアスペルガー症候群を含む)、ADHD(注意欠陥多動性症)を取り上げます。また、便宜的に自閉症スペクトラム症の中で知的障害を伴うものを自閉症、伴わないものをアスペルガー症候群と呼ぶことにします。当院ではADHDの治療薬であるコンサータは処方できません。
1.作業所でうまくいかない知的発達症の女性
来院時
20代女性です。小学校の時に、中等度の知的発達症と診断され、中高と特別支援学校を出ました。その後、A型の作業所に通っていました。3か月前から作業所の人間関係で悩み始め、気分が落ち込み始め、作業所に行けなくなってしまい、当院を受診しました。
来院後
元々人とのコミュニケーションが苦手だったようです。よくよく聞くと、4か月前に本人のことを気にかけてくれていた高齢の女性職員が退職してしまったようです。そこから、本人が孤立しがちになっていたとのことでした。いつも一緒に来院している母にそのことを共有し、母から作業所の職員に相談したところ、他の職員が本人に声をかけてくれるようになりました。すると、あっという間に落ち込みはなくなり、楽しく作業所に通えるようになりました。
コメント:
知的発達症や自閉症のある方は環境の変化に弱いです。ちょっとしたことで気分が落ち込んだり、逆にいらいらして衝動行為に走ってしまうこともあります。どうしても落ち込みが強いときは抗うつ薬を使ったり、興奮が強いときは抗精神病薬を使うときもありますが、あまり効果のないときもあり、環境調整も同時並行で行うこともあります。
2.大人になって知的発達症に気づかれた男性
来院時
30代男性です。高校を卒業した後、職を転々としていました。いつも周りのスピードについていけず、上司から叱責されることが多かったようです。今回、1年前から続けていたのですが、工場で上司から怒られることが多く、3か月前から気分が落ち込み、当院を受診しました。
来院後
診察の時の話で曖昧な言い方が多く、知的発達症を疑いました。当院では心理検査ができないので、他院に検査を依頼し、IQ67であることが発覚しました。軽度の知的発達症と診断し、就労支援などを促しました。その後、障碍者手帳を取得し、転職し、他の会社の障害者枠で勤務し、そこでは保護的な環境のもと、仕事が長続きしています。
コメント:
この方には抗うつ薬を使いましたが、あまり効きませんでした。やはり抗うつ薬というのは、普通のうつ病の人に一番効果が出やすいのです。気づかれていないだけで、実は知的発達症または境界知能(IQ70~85)だという患者様を時々診察します。もちろん、効く薬はないのですが、環境調整をしてあげると、本人が行きやすくなることがあります。
3.大人になってから境界知能に気づかれた女性
来院時
20代女性です。3年前に結婚し、2年前に出産しました。結婚当初から、夫から暴力を受けていました。ついに耐え切れなくなり、1か月前から母子ともにシェルターに避難していました。今回、リストカットなどの自傷行為がとまらず、当院に受診しました。
来院後
年齢より幼いしゃべり方をする方でした。知的発達症を疑い、小さい頃の話を聞いたところ、小学生のころから算数は授業についていけなかったようです。中学の時も全く授業についていけず、いじめにあっていたとのこと。普通級に通っていました。診察室で、簡単な算数の問題(私は速さや割合の問題を出すことが多いです)を出してみましたが、全く答えられませんでした。心理検査を促し、他院で検査してもらいました。IQ73でした。これでは、なかなか日常生活における判断や問題を解決するということが十分にはできません。どこにも相談できず、夫からの暴力にじっと耐えていたようです。結局、その後、離婚して実家に戻ることになり、家事手伝いをしながら、子育てをしています。薬は睡眠薬を頓服で使ったのみです。
コメント:
世の中の方の大部分はIQ90~110の人が多く、IQ100から上にも下にも離れれば離れるほど、人数が少なくなると言われています。なので、世の中のルール、仕事、機械の操作、などは、おおむねIQ90~110の人に向けて作られている、と言っても過言ではないでしょう。そうすると、IQが低めの方は、どうしても仕事でほかの人についていけなかったり、他の人だったらとっくに誰かに相談しそうな事柄をずっと我慢し続けたり、といったことが多いです。要は問題解決能力が低いのです。世の中にはこのように一見普通に見える方で、IQが低いことにより一人で苦しんでいる可能性があります。
4.母親に暴力をふるってしまう自閉症の男性
来院時
20代男性です。生まれつき重度の自閉症があり、生活介護に通っています。当初から、興奮しがちではあったのですが、最近になり、気に入らないことがあると、母親をたたいたり、押したりする行動が見られるようになってきました。最近になり、暴力行為が頻繁になってきたので、当院を受診しました。
来院後
言葉での疎通は全く不可能な方でした。診察室でも、診察室のマイクをつかもうとしたりします。決して悪気はないようです。母曰く、いつも行っている公園に雨でいけない、などちょっとした予定外のことが起きると、イライラしてしまうようです。興奮に対して、抗精神病薬を試したところ、興奮しにくくなりました。今では、おおむね問題なく過ごしており、生活介護にも定期的に通っています。
コメント:
当院には、知的発達症または自閉症の方が多く通っています。てんかんを合併している方もいます。イライラや衝動行為には本人になりの理屈があると思われますが、知的障害の度合いが強いと、なかなかそれを本人が言語化するのは難しいこともあります。もちろん、最近、環境的に変わったことがあったなど、分かりやすい原因があればいいのですが、周りから見てもイライラの原因がわからないことも多いです。そのような場合にはイライラ、衝動行為に対して、抗精神病薬(リスペリドン、アリピプラゾールなど)を使用する場合があります。
5.生活介護の職員にかみついてしまう自閉症の男性
来院時
20代男性です。重度の自閉症を持っています。両親と3人暮らしです。特別支援学校の高等部を卒業した後、生活介護に通っています。最近になり、生活介護の職員にかみつく行為があり、職員がけがをしてしまいました。両親と施設の責任者と来院されました。
来院後
医師の質問に対して、単語のみで答えますが、それ上の疎通は難しいようでした。医師から、どうして人を噛んでしまったのかを聞いても、「かんだ」というだけで後は黙ってしまいました。両親からも施設職員からも「普段はおとなしいのに」とのことでした。薬は出さずに経過観察としました。その後、問題行動なく経過しています。
コメント:
この方も、その暴力行為の原因は結局分からずじまいでした。おそらく、その日、本人のこだわりに反する何か予定外のことが起きたのではないか?と思われます。
6.グループホームに入り、不穏が強くなった自閉症の男性
来院時
40代男性。自閉症があり、軽度の知的発達症も合併しています。長年両親との3人暮らしで、作業所に通っていたのですが、両親の高齢化もあり、グループホームに入居することになりました。1か月前にグループホームに入居しましたが、入居直後から、不眠がちになり、大声、脱走未遂、などの問題行動も頻発するようになったので、当院を受診しました。
来院後
診察時は落ち着いていましたが、付き添いで来院したグループホームの職員曰く、「一人になると不穏になる」とのことでした。両親は「ショートステイで同じ施設に何度も泊まって慣れていたはずなのに」と話していました。まだ、環境の変化に慣れていないだけだろう、との判断で、抗精神病薬を処方しました。何度か通院してもらうと、徐々にグループホームでの生活にも慣れてきて、精神的にも落ち着いてきました。
コメント:
繰り返しになりますが、自閉症や知的発達症の方は、環境の変化に弱いです。少しずつ慣れていく必要があります。薬が必要場合もあれば、経過観察だけで落ち着く場合もあります。ただ、グループホームや作業所の職員や家族が既に困っている場合には、薬を処方するケースが多いです。
7.職を転々としているアスペルガー症候群の男性
来院時
20代男性です。高校卒業後、バイトをしているのですが、どういうわけか周りとうまくいかずに、首になるということを繰り返しているとのことです。バイトが長続きしないことを悩み、自ら受診しました。
来院後
周りとどううまくいかないのかを聞いても、要領を得ない返事でした。ただ、診察場面での受け答えから空気の読めなさを認め、アスペルガー症候群を疑いました。さらに、小さい頃の話をよく聞くと、小学生のころから、余計な一言を言って、友達を怒らせ、孤立しがちだったようです。アスペルガー症候群と診断を伝え、アスペルガー症候群とはどのような病気、性質なのかを伝え、日常生活の助言をしました。その後、自分でもアスペルガー症候群の本を買って読み、少しずつ対処法を学んでいきました。
コメント:
アスペルガー症候群とは簡単に言うと、「空気の読めない性格」を生まれつき持った方です。例えば、「この仕事を早めにやっといて。適当でいいから。」と言っても、普通の人なら、例えば「多分、8割ぐらいの仕上がりであと3時間ぐらいで終わらせればいいんだろう」と勘が働くのですが、アスペルガー症候群の方は、その「早め」「適当」というのが全く理解できません。なので、極端に時間をかけすぎて怒られたり、逆に適当にやりすぎたりして怒られたりしてしまいます。上司としては、「教えなくても普通わかるだろ!」というような「普通」がわからないのです。なので、どうしても会社において叱責されることが多く、本人も周りも悩んでしまうことになります。
8.うつ病になったアスペルガー症候群の男性
来院時
30代男性です。IT系の会社でシステムエンジニアをしています。勤続8年目ですが、空気が読めず、しばしば上司の指示の意味を取り違えて怒られていました。3か月前に顧客と仕事の打ち合わせをしているときに、不用意な発言で、相手方を怒らせてしまいました。そのことで、上司に強く怒られ、「お前はいつもそうだ。尻拭いするこちらの身にもなれ」と言われ、気分が落ち込むようになりました。落ち込みが強くなったので、当院を受診しました。
来院後
空気が読めず、人の言ったこと、特に言葉の裏の微妙なニュアンスを察することが出来ずに、人とぶつかってしまうことが多いとのことでした。これは小さい頃からの特徴だったとのことで、アスペルガー症候群の方が二次的にうつ病になったと判断し、抗うつ薬を投与しました。休職し、3か月後に復職。その際に、会社側にもアスペルガー症候群の診断を伝え、部署移動してもらいました。その後、本人には上司が具体的に指示するようにしたところ、仕事上も特に支障が無くなりました。対人関係、特に顧客との連絡には上司が間に入っているようです。
コメント:
アスペルガー症候群の方は、人とのコミュニケーションで人と微妙にずれてしまい、相手を怒らせてしまうこともあります。暗黙の了解、普通、といった概念が苦手なんですね。逆に、能力に凸凹があることが多く、特定の得意分野(この方の場合はプログラミング)だけはほかの人に負けない能力を発揮する場合もあります。
9.仕事で大きなミスをしたアスペルガー症候群の女性
来院時
20代の女性。事務職をしています。入職、当初から変わった言動が多く、突拍子もないことを言うので、周りから「不思議ちゃん」「天然」と呼ばれていました。しかし、1年前に上司が変わり、その上司との相性が悪く、叱責されることが増えてきました。3か月ぐらい前に仕事上で、上司の指示をうまく理解できずに大きなミスをしてしまいました。その頃より、気分が落ち込みはじめ、当院を受診しました。
来院後
話し方が幼く、ゆっくりとしゃべり、独特な疎通でした。小中学生の頃も、「変わっている」と言われ、一時期、いじめにもあっていたようです。アスペルガー症候群と診断を伝え、上司や人事部、産業医にも相談してみるように促しました。その後、上司とともに来院されたので、医師より、アスペルガー症候群の特徴を伝え、本人に対する接し方など伝えました。その後は、気分は徐々に落ち着き、職場ではあいかわらず、「天然」扱いされながらもなんとか働けているようです。
コメント:
女性の方が一般に空気が読めるので、軽度のアスペルガー症候群は周りから気づかれない場合も多いです。軽度だと、「天然だね」で片づけられるからです。ただ、周りとぶつかったり、対人トラブルが多くなると、周りから攻撃されることも多くなってしまいます。精神科医としての経験上、男性より女性の方がアスペルガー症候群があっても、社会適応できている印象です。これはADHDであっても同じです。仮に仕事を首になっても、結婚し、専業主婦でなんとか生活している人も多くいます。これに比べると、男性のアスペルガー症候群の方が、やはり社会における風当たりが強い、と感じます。今後、女性の社会進出がもっと進むと、女性も大変になるのかもしれません。
10.女性とうまくいかないアスペルガー症候群の男性
来院時
30代男性です。東大を卒業し、一流企業で働いています。職場ではやや空気が読めず、周りとぶつかることもあるものの、本人の仕事の業績が良いせいなのか、順調に出世しています。35歳ごろから婚活を始めましたが、全くうまくいかず、自ら発達障害を疑い、当院を受診しました
来院後
ものすごく早口で理路整然と話す方でした。自分の興味があることになると、診察中も医師が遮らない限りはずっと話してしまいます。空気が読めないのは明らかでした。都内の難関中高一貫校を卒業し、現役で東大に入り、大学も優秀な成績で卒業したようです。大学時代は彼女がいたようですが、「自分勝手だ」と言われ、ふられてしまったとのことです。良く聞くと、やはり、婚活パーティーでも自分の興味のある話ばかりしてしまうようです。アスペルガー症候群と診断を伝え、アスペルガー症候群関係の一般の書籍を読んで、自分でも勉強してみるように促しました。勉強は得意なこともあり、早速、本を読み、本人なりには自分を振り返ってみたようです。結局、一般的な婚活パーティーではなく、特定の分野(アニメ、映画、筋トレ、など)が好きな人が集まる婚活パーティーに参加し、その後、彼女が出来たようです。
コメント:
アスペルガー症候群の中には、筆記試験がとてもできる方がいます。噂によると、東大生の4分の1がアスペルガー症候群の傾向があるとか。。。医師にもアスペルガー症候群の方がそれなりにいます。自分の得意分野になると、饒舌ですが、それ以外のことには極端に無関心な人もいて、周りの空気を壊してしまう人もいます。
11.提出物が出せないADHDの女子高生
来院時
高校2年生の女子。提出物の忘れ物が多く、また、提出期限に間に合わず、学校から注意され、このままでは3年生に上がれないかも、と担任に言われ、当院を受診しました。
来院後
同伴した母に話を聞くと、「小学生のころからそそっかしくて、物をなくす、宿題の提出期限を守れない、そもそも宿題が出たことすら忘れていて、学校から親に電話がかかってくる」といったことがしょっちゅうあったようです。また、片付けも苦手で、何か月前のプリントがランドセルの奥底や家の机の引き出しの中から見つかったことも何度もあったとのことでした。ADHDと診断し、薬を処方したこところ、効果があり、忘れ物も減りました。なんとか学校側の温情もあり、3年生には上がらせてもらったようです。
コメント:
ADHDの方は、うっかりや忘れ物が多い方がいます。うっかりに対して、薬が効く場合もあります。うっかりや忘れ物に対して、メモや付箋を活用しましょう、と助言することも多いのですが、中等度以上になると、メモや付箋を書いた数分後には書いたことすら忘れてしまったり、そのメモをなくす人もいます。薬も効く人もいるのですが、そもそも処方箋通りにちゃんと飲めない人もいて、なかなか治療が難しいこともあります。
12.遅刻が多く首になったADHDの男性
来院時
20代男性です。今の会社に就職して3年たちます。最初から遅刻が多かったのですが、半年前から会社でも本格的に問題視されてきました。結局、首になってしまい、そのことで悩み、当院を受診しました。
来院後
小さい頃から遅刻がとにかく多かったようです。また、宿題などの提出物もいつもギリギリ。夏休みの宿題も毎年のように8月25日あたりから慌てて始めるというのが毎年恒例だったとのこと。ADHDと診断し、薬を投与したところ、多少は改善が見られ、次の会社では遅刻は少なく、何とか続けられているようです。
コメント:
ADHDの方には、時間の流れが人と変わって感じられる人がいます。普段からボーっとしているタイプの人に多いです。例えば、朝7時に家を出ないと会社に間に合わないとします。すると、普通の人なら、夜12時ぐらいには寝て6時には起きないといけない、などと考えるわけですが、ADHDの方だと、そもそもだらだらして、寝るのが2時ぐらいになってしまう方もいます。また、6時に起きれたとしても、そこからぼーっとすごし、6時45分になってから、「もうこんな時間!?ちゃんと6時には起きていたのに!」とばかりに慌てて準備を始め、遅刻して家を出ていく。おまけに忘れ物もしていく。これが、非常によく聞くパターンです。
13.衝動性が高いADHDの男性
来院時
20代の男性。小さいころから多動。中学生からぐれてしまい、高校を1年で中退した後は暴走族に入っていました。19歳から内装業で働いていたのですが、職場でカチンときて上司を殴ってしまい、問題になってしまいました。心配した父親と一緒に受診されました。
来院後
父の話だと、小さい頃からとにかく落ち着きがなく、衝動的だったようです。幼稚園児の時に、反対車線に母親の姿が見えると、信号が赤なのに飛び出してしまい、危ない目にあったこともありました。また、幼稚園を抜け出し、騒ぎになることも数回あったようです。小学生の時も授業中も落ち着きなく、周りの同級生にちょっかいを出してしまい、先生から親が呼び出されたこともありました。両親からも注意しましたが、衝動的な行動は中学、高校と続いていました。向精神薬を投与し、かなり落ち着きを取り戻しました。
コメント:
結局、この方の場合は、同じ職場で働き続けることが出来ました。ADHDの方は普通は衝動性、多動は成長するにつれて、おさまってくることが多いのですが、一部の方で、あまり変わらない人もいます。15の例でも紹介するように、逆に、このパワフルさがうまくはまり、社長になり、企業を大きくする人もいたりします。
14.アスペルガー症候群とADHDが合併している男性
来院時
20代の男性。小さい頃から忘れ物が多く、また、空気も読めず、いじめられることが多かったとのことです。職場で顧客を不用意な発言で怒らせてしまい、それが問題となり、会社に居づらくなり、退職してしまいました。その後、就活をしているのですが、面接で前の会社を辞めた理由を聞かれた際に、正直に答えてしまい、何社も落とされました。そのことで悩み、当院を受診しました。
来院後
診察上でも思ったことは何でも口に出してしまう印象でした。確かに職場で浮いてしまってもおかしくはありません。薬を投与することにより、そそっかしさは多少改善しました。しかし、空気の読めなさは続いたので、診察上で助言などを繰り返しました。結局、なんとか他の会社に就職が決まったようです。
コメント:
アスペルガー症候群とADHDは合併することが多いです。純粋にアスペルガー症候群、純粋にADHDの方もいますが、あまり数は多くない印象です。アスペっぽさ(空気の読めなさ)とADHDっぽさ(おっちょこちょい)が混ざっている方が多く、その人その人によって、アスペっぽさの方が強かったり、ADHDっぽさの方が強かったり、といった感じです。まったく同じ症状という人は基本的にはいないので、その人に合わせた生活などへの助言、薬、が必要になってきます。
15.自閉スペクトラム症やADHDでありながら、活躍している人々
コメント:
ここでは、症例ではなく、いわゆる発達障害があっても社会的に活躍、ないし、適応している方々の例を挙げていきます。以前、私が経験した患者様をもとに、創作した症例です。
①30代、アスペルガー症候群の男性です。空気を読むのは苦手ですが、難関大学の理系学部を出ており、頭脳明晰です。建築会社で、建築物の構造の計算などをする部門で働いていますが、理系に強い彼が重宝されています。空気が読めないのは、同僚、上司は知っているので、分かったうえで、彼に接しています。上司がちゃんとわかりやすく指示さえ出せば、誰よりも早く計算の仕事を終わらせてくれるからです。しかも、性格上こだわりが強く、何度も計算をし直すので、ミスが極端に少なく、顧客の評判もいいのです。顧客とのコミュニケーションが苦手ですが、これも上司がフォローしてあげています。このように、少数ですが、本人が実力があるので、周りが本人に合わせてくれる方もいます。
②20代のADHDの女性です。うっかりが小さい頃から多かった方です。しかし、小さい頃から絵がうまく、イラストレーターとして有名になり、会社で働いています。締め切りが守れなくなることもありますが、上司が全力でフォロー(急かす)ことにより、何とかなっています。このように、ADHDの方は芸術関係でも、自由な発想を持っていることが多く、人とは違う、いい仕事をしやすい傾向にあります。やはり本人にしかできない仕事というのは強みですね。
③40代のADHDの男性です。自分でIT系を立ち上げ、会社の規模を大きくし、従業員は数十人います。うっかりは多いのですが、秘書がいるので、何とかなっています。本人は多動なのですが、それがいい方向に作用し、いろんな人と毎晩会食し、人脈が自然と広がっていきます。また、多動により、どんどん攻めた事業を始め、それが当たっています。社長友達から、新しいビジネスの提案があると、よく考えずにすぐに飛びついてしまいます。もちろん、それで失敗することもあるのですが、行動を次々に起こすので、そのうち、大きく成功することもあり、結果的に会社が大きくなってきています。このように、多動性がうまくかみ合うと、ものすごく業績を上げる人もいます。彼の場合、運が良かっただけかもしれませんが・・・。
➃最後に、40代の男性です。アスペルガー症候群です。小さい頃から空気が読めず、同級生から馬鹿にされることが多かったようです。しかし、勉強だけはよくでき、医師になっています。病院でも空気を読めず、たまに、患者様からクレームが来ます。看護師ともうまくコミュニケーションがとれず、病棟でもあまりいい評判ではありません。しかし、医者の人数が少ない病院なので、彼も重要な戦力であり、院長も彼のことを無下にはできません。勤務態度自体は真面目で、本人なりには一生懸命仕事をしています。このように、弁護士、医師など、世間的に「頭がいい(=ペーパーテストができる)」と言われる職業には、アスペルガー症候群の人が多くいます。おそらくですが、弁護士、医師になるには、多くの勉強時間を要するので、こだわりの強さなどのアスペルガー症候群の特性が、勉強を持続するのに有利に働く側面があるのかもしれません。空気が読めず、普通の会社ならとっくに干されているであろう人も、国家資格に守られ、生活できているという人もいるのです。