第6回 心療内科と精神科の違い
第6回です。今回、心療内科と精神科の違いについて説明してきたいと思います。最初に言っておきますが、私は「精神科医」です。では、なぜ、当院に限らず、心療内科も標榜しているメンタルクリニックが多いのでしょうか?
心療内科とは
厚生労働省のホームページによると、「心療内科とは緊張やストレスなどの心理的な影響が原因で起こる身体の疾患(心身症)を従来の身体的な治療のみならず、併せて心理面での治療やケアを行うことを目的とした心身医学を母体とする診療科です。」と書いてあります。簡単に言うと、体の病気で精神的なストレスも関連している病気ということですね。さらに、「診療する病名は過敏性腸症候群・潰瘍性大腸炎・機能性胃腸炎などの内科疾患からがん患者の緩和ケア、腹痛・頭痛・腰痛・顔面痛などの慢性疼痛、ストレスが関与する虚血性心疾患や動悸、肥満症、偏頭痛、めまいなど多岐にわたります。」と最後に記載されています。なので、本来は内科の先生が診ている領域です。実際に、心療内科専門医の受験資格を調べてみると、このブログを書いている現在、満たすべき条件の一つに「申請時において日本内科学会認定内科医(あるいは総合内科専門医)または、新内科専門医の資格を有すること」とあります。もちろん、私も心療内科専門医資格は持っていません。ただ、上記のような症状は精神科疾患と共通する点が多く、当院でも、過敏性腸症候群、ストレスによる慢性疼痛や動悸やめまいは、よく診ています。
精神科とは
精神科とは、当たり前ながら精神疾患を診る科です。統合失調症、躁うつ病、うつ病、不眠症、不安障害、拒食症、などを診ています。私もこのような「The精神疾患」を長年研修し、経験を積んできました。当院に受診されている方も大部分が精神疾患を持っています。なので、一般的にはメンタルクリニックなどで、精神科、心療内科と標榜していても、診断や治療などやっていることはほとんど精神科なんですね。
どうして心療内科も標榜するの?
では、なぜ心療内科を標榜している精神科クリニックが多いのでしょうか?それは、単に「そのほうが患者が来そうだから」という経営面ではないと私は思います。以下、私の持論です。昔から言霊(ことだま)という用語があるように、名前というのは非常に強い力を持っています。簡単に言うと、「心療内科」の方が「精神科」よりも言葉の持つイメージがマイルドだからですね。残念ながら、患者様の中には精神科に対して、偏見が強い方もおられます。本当は、うつ、不安などで苦しんでいるのに、「精神科に受診しているなんて周りには言えない」と考えて、受診できない人も多数いるのではないか、と想像しています。これまでに本人が受診したくても、家族や友人が「精神科なんて行ったらダメ。病名付けられて、精神病患者扱いされるよ」と言われてなかなか受診できなかったとうケースも数多く経験しています。内科や外科と違い、「調子が悪いから病院に行く」という当たり前のことが、精神科になったとたん当たり前にならなくなってしまっている。そのような状態を少しでも避けるために、心療内科も標榜しているクリニックが多いのだと思います。実際に、科にかかわらず、どんな病気も軽症のうちに治療した方が治りが良いです。話は飛びますが、てんかんという病気がありますよね。わたしはてんかん専門医を持っています。てんかんは漢字で書くと、癲癇と書きます。癲には「狂う、気が違う」、癇には「ひきつけ」という意味があります。この言葉のルーツは昔の中国の医学書にあるのだそうです。今の時代だと、非常に差別的ですよね。なので、てんかんと平仮名で表現しているのです。もしかしたら、そのうち、てんかん自体も病名が変わるかもしれませんね。精神分裂病→統合失調症、痴呆症→認知症のように。
今回は、以上になります。