全般性不安障害

心配しすぎる・強い不安を感じる全般性不安障害とは

心配しすぎる・強い不安を感じる全般性不安障害とは全般性不安障害とは、日常生活の中で強い不安感に襲われ、その結果としてさまざまな心身の不調が続き、生活に支障をきたしてしまう状態です。

周囲からは「心配性」や「気にしすぎ」と言われることが多いかもしれませんが、ご本人にとっては、その不安を拭い去ることができず、長期間にわたって症状に苦しむことがあります。不安が日常生活に大きな影響を与えている場合は、早めに専門の医師に相談することが大切です。

その他の神経症・不安障害

全般性不安障害の他にも神経症・不安障害にはいくつかの種類があり、それぞれ症状も異なります。

強迫性障害

強迫性障害とは、強い不快感や不安(強迫観念)に悩まされ、それを解消しようとして過剰な行動(強迫行為)を繰り返してしまう状態です。
例えば、「手が汚れているのではないか」という強い不安に襲われ、必要以上に何度も手を洗い続けてしまうなどのケースが挙げられます。

解離性障害

解離性障害とは、強いストレスやトラウマに対処する自己防衛の一つで、自分の意識を切り離すことにより発生します。この障害では、「解離」と「転換」という二つの主な症状が現れます。

「解離」の症状には、自分の行動や経験を完全に忘れる、自己のアイデンティティが不明確になる、あるいは自己が複数存在するかのような感覚が挙げられます。
「転換」の症状では、身体の一部が機能しなくなる、感覚や視覚、聴覚、嗅覚の部分的な麻痺が発生することがあります。

心気症

心気症とは、自分が重篤な病気(がんや心臓病など)にかかっているという強い思い込みにとらわれる状態を指します。患者様は、自分が病気だと周囲に訴えたり、不安感や抑うつ症状を伴うこともあります。大切な人の死去など、心的なショックがきっかけとなる場合もあります。
医師の診察や検査で、病気が存在しないことを説明しても、心気症の症状は長期間続き、日常生活に支障をきたすことがあります。また、心気症はうつ病を併発するケースもあります。

パニック障害

パニック障害とは、身体的な病気がないにもかかわらず、突然の動悸や呼吸困難、めまいなどの発作を起こす病気です。また、発作が再発するのではないかという強い不安から、外出や乗り物の利用が難しくなることもあります。
また、他の症状としては、発汗、吐き気、そして頭から血の気が引いていくような感覚も挙げられます。

恐怖症

恐怖症とは、特定の状況や対象に対して、過度に強い恐怖を感じる状態を指します。
恐怖を感じる状況に直面すると、通常では考えられないほど強い不安に襲われ、動悸や発汗、呼吸困難などの身体症状が現れることがあります。しかし、恐怖を感じる状況にない限り、普段の生活には全く問題がないという特徴があります。
よく知られている例としては、高所恐怖症が挙げられますが、他にも閉所恐怖症、広場恐怖症、社会恐怖症などがあります。

全般性不安障害の症状

精神的症状

精神的な症状としては、以下のような状態が挙げられます。

身体的症状

身体面の症状としては、以下のようなものが挙げられます。

『うつ病』と『心配性』との違い

全般性不安障害は、その症状がうつ病に似ていることがあります。また多くの場合、周囲の人々はこれを単なる「心配性」とみなすことが多いです。ここでは、全般性不安障害とうつ病の違いについて説明します。

全般性不安障害とうつ病の違い

全般性不安障害は、特定の状況で強い不安を感じ、その状況を回避したり我慢することで不安がさらに強まる特徴があります。
患者様ご自身ではこの不安をコントロールできず、毎日のように続き、生活機能にも支障をきたします。これらの点が、うつ病などの他の精神疾患とは異なる特徴です。

また、全般性不安障害の方がうつ病を併発する場合や、うつ病の方が全般性不安障害を併発するケースも少なくありません。

 

全般性不安障害と心配性の違い

全般性不安障害と心配性を区別する基準は「日常生活に支障が出ているかどうか」です。

心配性は、個人の性格や気質に由来する特徴であり、病気や障害ではありません。
一方、全般性不安障害は明確な病気であり、極度の心配が原因で日常生活の機能が著しく低下し、何も行動できなくなったり、外出が困難になったりすることがあります。

全般性不安障害の診断基準

診断にあたっては、患者様ご本人だけでなく、ご家族の既往歴や、似たような症状があったかどうかも確認することがあります。その上で、以下のポイントを評価し、診断を行います。

全般性不安障害の治療

全般性不安障害の治療では、患者さまが本来持っている感情のバランスを取り戻すことを目指し、薬物療法と精神療法を組み合わせて行います。
通常、まずは薬物療法を用いて症状を和らげ、不安に適切に対処できる状態を整えます。症状が軽減されることで、その後の精神療法がより効果的に導入できるようになります。薬物療法と精神療法を併用することで、より安定した回復を目指します。

「薬物療法」

薬物療法薬物療法では、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きを活性化する抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、不安を和らげる向精神薬(BZD:ベンゾジアゼピン)などを使用します。これにより、不安や緊張を軽減し、治療が進みやすい状態を整えます。

「精神療法」

精神療法全般性不安障害に対する精神療法には、「認知行動療法」などが用いられます。
「認知行動療法」とは、患者様の認知の歪みを修正し、不安を感じにくくする方法です。不安が生じたときの考え方や対処法を改善することで、ストレスを和らげ、症状のコントロールを図ります。当院では、認知行動療法は行っておりませんので、医師より具体的な生活上の助言をしていくことになります。

全般性不安障害 症例

ここでは、いくつかの不安障害のパターンを紹介していきます。
これまでに院長が実際に経験した症例を紹介していきます。個人情報に配慮して、個人が特定できないようにところどころ脚色しています。なお、パニック障害=パニック症です。パニック症のほうが新しい呼び方です。他にも、最近は○○障害→○○症と、呼び方が変わってきています。また、字数の関係で、比較的すぐに治った症例が多いですが、これは簡略化のためであり、実際は改善に半年、1年かかることもよくあります。

症例1:雷が怖い限局性恐怖症の女性

来院時

20代女性です。小学生の頃から、大きな音が苦手になり、特に雷が鳴ると怖くてたまらなくなりました。これまではなんとか家にこもったり、雷が鳴る夜は母親と寝たりして我慢してきました。しかし、社会人になり、一人暮らしを始めてから、雷の天気予報を見るだけで不安になり、雷が鳴ると、実家の母親にしょっちゅう電話するようになってしまいました。なんとかしようと思い、当院を受診しました。

来院後

Aさんは、毎日夜遅くまで次の日の授業や保護者対応について悩み、眠れない日が続いていました。「もし授業がうまくいかなかったらどうしよう」「保護者からクレームが来たらどう対処すべきか」といった不安が頭から離れず、休日でも常に仕事のことを考えてしまいます。軽い胃痛や筋肉の緊張感、集中力の低下も感じるようになり、仕事にも支障が出始めました。

コメント

いわゆる○○恐怖症です。恐怖の対象として、多いのは高所、閉所、血、などです。ただ、正直なところ、あまりメンタルクリニックを受診してくる方は多くなく、私自身も治療経験が豊富とは言えません。人には言わずに我慢している人も多いのかもしれません。本来はカウンセリングがいいのかもしれません(当院ではカウンセリングは行っておりません)が、私自身、「ここのカウンセリングセンターが○○恐怖症で有名だ」というのはあまり聞いたことがありません。

症例2:仕事に差し支えのある社交不安症の女性

来院時

20代女性です。もともと内気な性格で、小学生の時から、授業中にあてられると、緊張してうまく発表できませんでした。特に、国語の音読が苦手で、緊張して声がうわずることも多かったとのことです。大学時代もゼミでの発表は緊張しましたが、指導教官が本人に対して理解があり、優しく接してくれて、何とか卒業できました。2年前から、食品会社に就職しましたが、毎月ある会議に出ると緊張が強くなり、発言を求められた際にしどろもどろになったのを上司に注意され、仕事に行くのが嫌になってきました。気持ちも落ち込むようになり、当院を受診しました。

来院後

社交不安症と診断し、抗うつ薬で治療をしました。徐々に緊張が和らぎ、会議への出席もそこまで苦ではなくなりました。病状が安定して、1年たったころに、本人から治療をいったん中止したいとの申し出があり、抗うつ薬を徐々に減らし、中止しました。その後、当院での治療はいったん終了となりました。

コメント

社交不安症は簡単に言うと「極端なあがり症」です。対人関係や社会的に支障をきたす程度の緊張、不安を呈します。抗うつ薬は、落ち込みだけでなく、不安全体に効くことが多いので、社交不安症に対して、用いることが多いです。

症例3:大人になってから社交不安症になった男性

来院時

20代の男性です。高校時代まで活発で、高校の時のサッカー部で県ベスト4まで勝ち進みました。人前での発表は得意な方でした。大学時代に経済学部のゼミでの発表がうまくいかず、教授に叱責されたことを機に、人前で話すときに緊張するようになりました。建築会社の営業職に就職しましたが、顧客の前で話そうとすると、緊張して顔が赤くなってしまいます。その様子を顧客から怒られたり、心配されたりするようになりました。仕事に支障をきたすとのことで、上司に精神科受診を促され、当院を受診しました。

来院後

社交不安症と診断し、抗うつ薬を投与しました。半年ほどでかなり症状は良くなり、プレゼンもできるようになりました。営業職から他の部署に異動し、順調に仕事もできています。

コメント

社交不安障害は2の症例のように、ほとんどの方が小さいころから、あがりやすい性格であることが多いです。ただ、中には、高校生ごろまでは活発な性格だったのに、大人になってから急に、この病気になってしまう人もいます。とはいえ、大体20歳前半までに発症することが多いです。私の経験上、30歳以上になって初めて社交不安症を発症したケースはほぼ聞いたことがありません。

症例4:電車に乗れなくなったパニック症の女性

来院時

20代女性です。大学に入り、関西から関東に引っ越して、独り暮らしです。大学1年の5月に通学中に満員電車に乗ったときに、急に、過呼吸、吐き気、動悸、手の震え、発汗が始まりました。このままでは死んでしまうと感じ、途中駅で降りてしまいました。30分ほどで呼吸は落ち着き、その日は大学に行かずに、引き返してしまいました。その後、電車に乗ると同様の症状が起きるようになり、電車に乗るのが怖くなってきて、乗れなくなり、当院を受診しました。

来院後

パニック症と診断し、抗うつ薬を投与しました。2か月ほどで、パニック発作は起きなくなってきたので、医師と話し合い、少しずつ電車に乗ることを挑戦していきました。まずは、各駅停車の1駅だけ彼氏と乗ってみる。その次は、各駅の1駅を一人だけ乗る。その次は、快速の1区間だけ一人で乗ってみる。と徐々に負荷をあげていき、最終的には電車に乗れるようになりました。

コメント

非常によくあるパニック症の症例です。電車、映画館、歯科治療、などすぐに逃げ出せない場所において、動悸、過呼吸などのパニック発作が出現します。その症状が続くと、電車や人込みなど、パニックが起きそうな場所を怖がるようになり、避けるようになります。抗うつ薬が効果的です。よくなった後は、自分で電車などに再挑戦してもらうことが多いです。ただし、なかなか再挑戦も勇気がいることなので、薬で十分に症状が抑えられてからすることをお勧めします。

症例5:いろんな場所でパニック発作が起きるパニック症の女性

来院時

30代女性です。一人でお風呂に入っているときに、急に過呼吸、手の震えがあり、このままだと気が狂ってしまうのではないか、と思い、お風呂を上がりました。その後、高速道路を運転中にも、同様の症状が起き、なんとか次のサービスエリアまで運転し、休憩し、落ち着きました。その後、友人と映画館に行ったとき、歯科治療でタオルで目隠しをされた時など、同様の症状が起きました。心配した夫から勧められ、当院を受診しました。

来院後

パニック症と診断し、抗うつ薬を開始しました。家に一人でいて、家事をしているときにも、急にパニック発作に襲われることもありましたが、徐々に症状は改善。高速道路の運転だけはいまだに夫にしてもらっていますが、それ以外はおおむね落ち着き、生活できています。飛行機に乗る前や映画館に行く前は、頓服で抗不安薬を飲んで、なんとかやり過ごしています。

コメント

パニック発作は上記のように様々な場面で起こりえます。すぐに逃げ出せないときに多いのが基本なのですが、一人で家や自室にいる時にも意外と起こりやすいです。また、抗うつ薬を複数試しても、パニック発作がどうしても時々起きてしまい、生活上の工夫で乗り切っている方もいます。

症例6:生育歴が複雑なパニック症の女性

来院時

20代女性です。小さい頃から父と兄に虐待されて育ちました。母は助けてくれなかったそうです。妹もいるのですが、本人だけが暴力を振るわれて育ちました。中学生のころから、いじめにあい、イライラすると手首を切るようになり、自分の血を見ると少しだけほっとしていたようです。高校も1年の2学期で何となく嫌になり退学。その後は、コンビニ、キャバクラ、工場など色々とバイトをしていますが、人間関係でつまづきやすく、長続きしません。19歳ごろから、一人で家にいる時に、過呼吸を起こすようになりました。今回、彼氏と喧嘩した日の夜に、内科でもらった睡眠薬を酒と一緒にOD(over dose、過量服薬)してしまい、救急搬送されました。総合病院の救急部の先生に勧められ、当院を受診しました。

来院後

ODの危険もあるので、薬は出さずに、しばらく経過観察しました。どういうときに、パニックになりやすいのか確認し、パニック発作が起きても、特に心配いらないと説明しました。その後も、パニック発作を起こすことが多かったので、ODをしないと約束したうえで抗うつ薬を投与しました。その後も、パニック発作は続きましたが、回数は徐々に減ってきました。

コメント

育ちが複雑であると、そもそもが情緒不安定な性格であることが多いです。このよう場合、抗うつ薬は、育ちに問題がない人と比べて、やや効きづらい印象を持っています。また、パニック症だけでなく、うつや不安、不眠などのその他症状を合併することもあり、治療が複雑になることもあります。なので、パニック発作が治っても、引き続き、精神が不安定になりやすく、注意が必要です。

症例7:パニック症を疑われたが、実は甲状腺の病気だった女性

来院時

40代女性です。5年ほど前から、動悸を感じ始めました。場所を問わず、急に動悸を感じ、動悸の時間もまちまちです。なんとなく一日中ドキドキすることもあれば、強い動悸が3分ほど続くこともあります。また、1年ほど前よりイライラしやすいようになってきました。家族にも「性格が変わってきている」と言われるようになり、当院を受診しました。

来院後

パニック症を疑い、抗うつ薬を開始しました。しかし、初診時の採血にて、甲状腺ホルモンに異常値がみられました。近くの甲状腺の専門医の先生に紹介状を作成し、受診してもらったところ、バセドウ病と診断されました。甲状腺の薬を飲むことにより、症状は改善していったので、抗うつ薬は徐々に中止し、当院での診察はいったん終了となりました。

コメント

パニック症やうつ病とそっくりな訴えでメンタルクリニックを受診して、実は甲状腺の病気でした、ということは時々ですが、経験します。当たり前ですが、精神疾患と甲状腺疾患では、薬が全く違います。きちんとした医療につなげることが重要です。

症例8:育児の心配が強くなってきた全般不安症の女性

来院時

30代女性です。去年、初めての子供を産み、慣れない子育てで疲れがたまっていました。半年ほど前から、「子供が感染症になったらどうしよう」「夫が倒れたら、私の収入だけでは、この子を大学まで行かせられないのでは?」と色々と考え込むことが多くなりました。そのうち、生活上の他の些細な点まで気になるようになってしまい、不安と緊張で疲れてきました。1か月前から仕事中にも頭痛や肩こりも出てきて、当院を受診しました。

来院後

全てのことに対して、不安、緊張がちになっている状態でした。全般不安症と診断し、抗うつ薬を開始しました。徐々に不安は改善し、仕事も家事も差し支えなくできるようになりました。調子が良くなってから、1年ちょっと薬を飲んだところで、本人からいったん薬を辞めてみたい、との申し出があり、いったん治療終了となりました。

コメント

些細なことをきっかけに全般不安症になる方がいます。落ち込みや不安全体に抗うつ薬が有効ですので、処方することが多いです。「薬はいつまで飲むのですか?」という質問が時々聞かれますが、私は「不安系の病気なら大体症状が落ち着いてから1年は飲んでもらいます。1年落ち着いていれば、薬をいったんやめていってみて、精神科を卒業というのもいいでしょう。ただ、不安系の病気は再発することもありますので、そこはご理解ください」と説明することが多いです。ここでいう、不安系の病気とは、主に、パニック症、全般不安症、強迫症、身体症状症、などを指しています。

症例9:強い不安、焦燥を伴ううつ病の女性

来院時

70代女性です。これまで精神科に受診したことは人生で一度もありません。長年、夫との二人暮らしでしたが、2年前に夫を亡くし、さみしさを感じることが増えてきました。また、半年前に長男が離婚し、そのことを心配するようになりました。長男と本人の二人暮らしになりました。3か月前から気分が何となく落ち込むようになり、すべてのことが不安になってきました。1か月前より家事がおっくうになり、3週間前から、「私がしっかりしてないばかりに長男が離婚してしまった」「お金がなくて長男に迷惑をかけてしまう」と言うようになり、ついには「悪いことをしてしまったから警察に行かないと」と言って、夜中に家を出ていこうとしました。心配した長男長女とともに来院しました。

来院後

診察室でも、いかに自分がしっかりしていないか、ということをまくしたてるように話していました。妄想を伴ううつ病と診断しました。家にいても落ち着かず、家の中を歩き回っており、心身ともに疲弊している状況だったので、単科の精神病院にすぐに入院依頼をしました。3か月後、だいぶ落ち着き、長男との二人暮らしに戻り、家事もこなせています。

コメント

これは不安症に分類されるものではなく、重度のうつ病の一つのよくあるパターンです。高齢の方は時に、不安、焦燥が前面に出るうつを呈することがあります。また、うつ病が重度になると、罪業妄想、心気妄想、貧困妄想という妄想を伴うことがあります。罪業妄想は、自分が悪いことをしてしまった、自分のせいで周りに迷惑がかかってしまっている、という妄想です。心気妄想は、何か重大な病気にかかっているに違いない、という妄想です。貧困妄想は、お金が無くなってしまっている、という妄想です。妄想とは、訂正不能なもので、明らかに周りの人から聞いても事実と異なる内容を頑なに主張します。ここまで重度になると、入院を要する場合がほとんどです。

症例10:人格が何個もあった解離性同一症の女性

来院時

20代女性です。小さい頃に父から虐待され育ちました。中学生の時に、両親が離婚。母に引き取られました。その頃より、自分の中にいろんな人格がいることに気付き始めました。急に男のような粗暴な話し方をしたり、小さな女の子とのような幼児言葉を話したり、といった感じです。他にも、バリバリキャリアウーマン風のしっかりした女性の人格もいるようです。高校を卒業した後、家に引きこもって、母との二人暮らしを続けていました。今回、落ち込みがひどく、当院を受診しました。

来院後

うつ状態が強かったので、抗うつ薬を投与しました。人格の交代は、変わらず起こっており、「今日は〇〇(人格の名前)で来ました」と入室すると自己紹介していました。ほとんどが男人格で診察室に入ってくることが多かった印象です。おそらく、診察に来るにも緊張し、強い人格を出さざるをえなかったのかもしれません。そして、家などで情緒不安定になり、リストカットをするのも、特定の人格の時だけでした。気分の落ち込みは改善し、徐々に短期のバイトなどをはじめ、自然と人格の交代の回数が減ってきました。いまだに完全には治っていません。

コメント

いわゆる多重人格の症例です。当院では専門的な治療はできません。教科書を読むと、「カウンセリングにより人格の統合をはかる」とよく書いているのですが、私にはまだ実践できていません。ただ、私の単なる個人的な意見ですが、通い続ける(≒医師と信頼関係がある?)となぜか良くなっていく印象です。良くなっていくというより、人格との向き合い方に慣れてきて、実社会での生活において困ることが少なくなる、と言った方が正確かもしれません。私がとっておきの助言をするわけでもありませんし、直接的に効く薬もありません。おそらく、患者様が自力で治っていったのでしょう。じっくりと病気が向き合う必要性があると考えています。

症例11:いろんな箇所の痛みを訴える身体症状症の女性

来院時

50代女性です。5年ほど前に、手足のしびれを訴え、脳外科に受診しました。頭部MRIも取ってもらいましたが、異常なしでした。その後も、しびれる感じは続いていました。2年ほど前から、腰が痛くなり、整形に受診しましたが、レントゲンを撮っても異常はありませんでした。ここ半年前からは目もかすむようになりましたが、やはり眼科に行っても異常なしと言われました。今回、夫から精神科の受診を勧められ、当院を受診しました。

来院後

腰の痛みや肩こり、手足のしびれ、など様々な体の不調を訴えていました。実際に様々な科にかかっても、すべて異常なしと言われているようです。身体症状症と診断し、抗うつ薬を開始しました。症状は若干改善しましたが、やはり体の色々な箇所の症状は訴え続けています。

コメント

身体症状症とは、簡単に言うと、内科的、外科的に異常がない、あるいは少しの異常しかないのに、体の不調を強く訴える病気のことです。何かわかりやすい生活上の原因があれば、それを除去できるように助言しますが、除去が難しいストレス原因(配偶者や子育て、介護など)であれば、薬を処方し、少しでも楽になるようにお手伝いすることがあります。

症例12:のどのつまり感がとれない身体症状症の男性

来院時

40代男性です。生活保護を受けています。1年前から、のどに何かつっかえている感じが出てきました。耳鼻科に行き、ファイバーで喉を覗いてもらいましたが、異常がありません。また、歯の裏側にもなにかチクチクするものが詰まっていると感じるようになりました。歯科に行きましたが、やはり何も見つかりません。辛くて仕方が無くなり、当院を受診しました。

来院後

とにかくのどに何かが詰まっている、と強く訴えていました。あまりに何度も耳鼻科に受診するので、「もう受診しないでくれ」と複数の耳鼻科から言われてしまったとのことです。精神的な症状と考え、抗うつ薬を投与しましたが、あまり効果はありませんでした。

コメント

身体症状症では、口からのど元にかけて「何かが詰まっている感じがする」と訴える方が一定数いらっしゃいます。このような症状のことを古い言い方でセネストパチー、特に症状が口に限局するものを口腔内セネストパチーと言ったりします。基本的に治療抵抗性であることが多いです。抗うつ薬や抗精神病薬が効いたりすることもあるので、やれることをやっていくとスタンスを取ることが多いです。

症例13:ドクターショッピングをしている病気不安症の男性

来院時

60代男性です。退職後に暇を持て余すようになり、家でテレビを見たり、妻とスーパーに買い物に行く日々を過ごしていました。8か月ほど前に、インフルエンザにかかりました。その後、解熱したものの、咳がしばらく続いていました。そのころより、「肺癌かもしれない」「何か重大な病気かもしれない」と心配するようになりました。最初は、近くの内科クリニックに行ったのですが、医師の説明に納得せず、紹介状を書いてもらい、地域の総合病院に行き、胸部CTを取ってもらいました。異常はなかったのですが、やはり納得せず、他の総合病院でも同様の検査を受け、異常なしでした。さらに、そこの病院の循環器内科にも受診し、心臓のエコーなども受けましたが、やはり異常はありませんでした。大学病院に受診したいと言い出したので、その病院の内科の先生から勧められて、当院を受診しました。

来院後

「なにかの病気のはず」と強く心配している状態でした。妻から見ても、咳はほとんど出ないのに、本人は気にしています。医師より、「それだけ調べてもらったのなら、まず、内科的な病気は存在しないと思う。過度に心配になり、心も体も疲れ果てている状態。まずは、不安止めを飲んだりしてゆっくりするのが先決。病院にこれ以上検査を求めるのは逆に良くない。」と説明しました。不安止めを処方し、さらに、医師より、「人間、暇だと、自分の体に意識が行ってしまうから、なにか趣味や日課を持つと良い」と助言しました。妻と一緒に散歩を始め、薬も飲み、徐々に不安を口にすることは減ってきました。

コメント

昔でいう、心気症です。教科書を読むと、20~30代で始まる、とありますが、私の経験上は中高年の方をよく経験します。残念ながら、精神科に受診しても、1回の受診だけで通院を中断する方も多く、内科、外科を始め、色んな病院に受診し続ける方がいます。

症例14:声の出なくなった変換症の女性

来院時

20代女性です。もともと中学生、高校生の時、不安になり、学校を休むこともありました。社会人になり、事務職をしていました。最近、上司が変わり、すこし言い方がキツイように感じることが増えてきました。3か月前より、職場で上司に話しかけられたときに、言葉が出にくくなってきました。その後徐々に、しゃべれないシチュエーションが増えていき、同僚からも心配されるようになり、当院を受診しました。なお、耳鼻科にも受診し、異常なしと言われました。

来院後

診察のときは、普通に話せました。やはり上司と合うこと自体がストレスだと話していました。不安止めを頓服で処方し、後は、上司の上司や人事部にありのままを相談してみるように伝えました。結局、職場で上司や人事部を含め、数人で話し合った結果、異動が認められました。その後、徐々に声が出なくなることが減ってきました。

コメント

このケースの場合は、比較的、ストレスの原因もわかりやすく、また、会社側も本人に理解を示してくれた恵まれたケースと言えるでしょう。私が産業医として以前働いていた時の印象ですが、やはり、会社、職場というのは、従業員をよく見ています。似たようなケースでも、「上司に非はありません。異動は許しません。嫌なら退職しなさい」というケースも経験したことがあります。もちろん、会社の経営や人事の状況などが複雑に絡み合うので、一概には言えませんが、普段から一生懸命に働いていたりして、会社側の覚えが良いと、このような時に、会社側が融通をきかせてくれる場合もある・・・のかもしれません。

症例15:痙攣し、てんかんを疑われた変換症の女性

来院時

20代女性です。軽度知的障害があります。作業所に通い始めて5年たちます。1年ぐらい前から、時々、作業中に突然倒れ、全身痙攣するようになりました。痙攣は長いと1時間ぐらい続きます。痙攣するたびに救急搬送になるので、てんかんを疑われ、職員と親と共に来院しました。

来院後

症状的に、てんかんは否定的で、いわゆる心因性の発作を疑いました。よくよく聞くと、1年ぐらい前に同じ作業所に通っていた本人と仲の良かった利用者が来なくなってしまい、寂しくなっていたようです。作業所で孤立を感じ始めた頃と、痙攣が始まった時期が一致していました。さらに、痙攣は作業所でのみ起きていることも判明。当院で脳波を取りましたが、異常波もありませんでした。心因性発作を疑い、そのことを本人、母親、作業所の職員に伝え、本人が孤立しないように配慮するように伝えました。その後、作業所で別の利用者と仲良くなり、痙攣は一切起きなくなりました。しばらく通院を続けてもらっていましたが、半年後に信頼していた職員が退職し、また、痙攣が起き始めました。今度は他の職員も対応が分かっていたので、1か月ほどで再び病状が安定しました。今でも、同じ作業所に週5日通っています。

コメント

これはあくまでてんかんをよく診ている私のクリニックにおいて、という話ですが、よくあるケースです。さらに、ややこしいのが、もともとてんかんを持っており、後から心因性の発作を起こし始める方も少なくはないということです。そうなると、私のようなてんかん専門医でないと、判断が難しくなりますし、私でも真のてんかん発作なのか、心因性の発作なのかわからないケースも出てきます。そのような場合には入院して長時間の脳波を取ってもらうと判断がつく場合もあったりしますが、そうそうクリアカットにはいきません。いずれにしろ、ある程度経過を追う必要があります。

症例16:出産を機に強迫症を発症した女性

来院時

30代の専業主婦の女性です。半年前に第1子を出産しました。子育て本をたくさん読み、気を付けて育児に励んでいました。しかし、数ヶ月前から、赤ちゃんが感染症にかかったらどうしようと心配するようになりました。子供の着るものを何度も洗濯するようになったり、子供が口にする食器やスプーンを何度も消毒するようになりました。あまり何度も繰り返すために、夫から注意され、それが原因で口論となることも出てきました。育児に1日数時間も時間を取られるようになり、疲弊し気分も落ち込んできました。また、家を出る時に鍵の確認も何度もするようになり、疲れ果てて、当院を受診しました。

来院後

子育てで何度も同じ行為を繰り返し、わかってはいるけど、止められない状態でした。強迫症と診断し、抗うつ薬を投与しました。2か月ほどで徐々に洗濯や消毒にかける時間が減ってきました。抗うつ薬を1年ほど続け、一旦薬物療法を中止しました。

コメント

強迫症とは、心配になり、何度も同じことを繰り返してしまう病気です。他にも、多いのは鍵の確認、火の元、ガスの元栓、水の確認、などです。分かってはいるけどやめられない、ということが多く、本人はかなり困っています。時々、重度の症例になると、本人は困っていないけれど、周りが困るということもありますが・・・。抗うつ薬が有効ですので、使う場合が多いです。

症例17:手を洗いすぎてしまう強迫症の男性

来院時

男子高校生です。高2になり、なんとなく手が汚いような気がしてきました。トイレに行った後に、手を何度も洗うようになりました。最初は1分ぐらいだったのですが、徐々に時間が長くなってきました。10分以上手を洗うようになり、手も荒れてきて、痛みも出てきましたが、どうしてもやめられません。また、トイレに行った後に、10分以上、洗面所を占拠してしまい、他の家族からも不満が出るようになってきました。学校でも手を洗いすぎることで、同級生からからかわれるようになってきました。母より精神科受診を促され、当院を受診しました。

来院後

どうしても汚いかも、汚れがまだあるのかも、と思い、手洗いをしてしまうとのことでした。強迫症と診断し、抗うつ薬を投与しました。1か月ほどで少し手洗いが我慢できるようになってきました。今では、1分程まで手洗いの時間は短縮しています。

コメント

いわゆる不潔恐怖が前面に出た強迫症の症例です。他にも、外の空気が汚いと思い、家に帰ってきたら、持ち物を全てアルコールティッシュで拭くという人も時々います。そんなことをしていると、時間がかかりすぎ、それだけで疲弊してしまいますね。また、重症例になると、家族にも自分のこだわりを押し付けるようになり、例えば家族にも「家から帰ってきたら、まず玄関で靴下を脱いで、足を濡れたタオルで十分に拭いてから家に上がらなければならない」というルールを守るように強制する人もいます。いわゆる「巻き込み」という状態です。そうなると、家族全員が疲弊し、本人が入院する必要も出てきます。

症例18:車に乗ることが怖くなった強迫症の男性

来院時

30代男性です。数ヶ月前から、車を運転しているときには「人をひいたのでは?」と思うようになり、その考えが頭から離れなくなりました。徐々に、心配が強くなり、1か月ほど前から1㎞進むごとに、路肩に停車して、車の下に人がいないか確かめるようになりました。その影響で、会社に遅刻するようになりました。また、仕事中も書類の不備が無いか、何度も何度も確認するようになり、仕事が進まなくなってきたので、当院を受診しました。

来院後

頭の中で、人をひいたかも、という考えがやまなくなる、と話していました。強迫症と診断し、抗うつ薬を投与。最初の薬は効果なく、6か月後に徐々に薬が効いてきました。少なくとも車の下をのぞき込むことはなくなり、会社には遅刻しなくなりました。仕事の確認も減ってきました。

コメント

頭の中で、「○○したのではないか?」と心配になってしまう症例は多いです。他にも、「スーパーから出てきて、万引きしたのでは?と思い、買ったものとレシートを全部突き合わせて確認してしまう」「自転車に乗っていて、人にぶつかったのではないか?と思い、何度も後ろを振り返ってしまう」「いきなり自分がおかしくなって、ナイフで歩行者を刺してしまうのではないか?と思い、頭の中でそんなことをするはずがない、と打ち消すことが癖になっている」などの訴えもあります。

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