⑥てんかんの治療・薬の選択
~てんかん診療医の方へ~

⑥てんかんの治療・薬の選択

図78
簡単に言うと、7割が薬で発作が止まります。低いように思えるかもしれませんが、精神科で日々様々な精神疾患を治療している私にとっては、7割治る病気というのは、かなり予後良好(治りやすいという意味)です。逆に言うと、てんかんという病気は、ちゃんと抗てんかん薬を選択すれば、きっちり効果が表れやすい病気でもあり、医師としてはやりがいも感じることが多いです。

図79
とにかく原則だけでも覚えてください。焦点性てんかんと全般てんかんで効く薬が違うのです!くわしくはてんかんガイドラインを読んでください。

図80
これは私の経験上のものなのですが、よく使う薬の中でも、この3つの薬はどちらかというと焦点性てんかんだけに効きやすい薬です。特に、ビムパットは私がよく処方する薬でもあります。®は商標登録のマークです。薬には一般名と商品名があり、CBZ(carbamazepineの略です)なら、カルバマゼピンが一般名で、テグレトールが商品名です。

図81
全般てんかんによく効く薬の代表はVPAです。私は、男性の全般てんかんにしかほぼ使いません。なぜなら、バルプロ酸は赤ちゃんの催奇形性が他の抗てんかん薬と比べて高いと言われているからです。女性の全般てんかんの場合は、レベチラセタム、ラモトリギンを使うことが多いです。そして、焦点性てんかん、全般てんかんにどちらにも効きやすい薬がレベチラセタム、ラモトリギン、ゾニサミドです。特にレベチラセタム、ラモトリギンがよく使われます。もっと言うと、ラモトリギンは薬疹の副作用がありますので、レベチラセタムが個人的には一番使いやすいのかな、と思います。てんかん専門医でない先生は、困ったらまずはレベチラセタムでいいのではないでしょうか?

図82
AED(抗てんかん薬のことです)の原則は①~③のようになります。要するに、発作が止まるか副作用で飲めなくなるまで、淡々と薬を増やしていくわけです。そして、最高量でも止まらないか、副作用が出てしまったら、他の薬に切り替える。これだけです。これまで私が紹介された患者の中には、発作も止まっていないのに、1種類の薬(なぜかバルプロ酸が多いです・・・)を数年飲み続けている方が何名もいました。そのうち、薬を変えただけで、ぴたりと発作が止まった人もそれなりにいました。2年発作が止まらない、薬を2種類ちゃんと試しても止まらない、という方は一度脳外科の手術適応が無いか、てんかん専門の脳外科医に相談してみることもお勧めします。

図83
抗てんかん薬は血中濃度が非常に重要です。ただ、原則1のように、発作が止まってさえいれば、濃度が低くてもOKです。ここは非常に個人差が多い部分です。高い血中濃度でないと発作が抑制できない人もいれば、低い血中濃度で発作が抑制できる人もいますし、もっというと、同じ用量の同じ薬を飲んでも、ある人では血中濃度が高いのに、別な人では血中濃度が低い、と言ったケースもよくあります。なので、てんかん外来においては、血中濃度の頻回の確認が重要なわけですね。ちなみに、原則3のコンプライアンスはちゃんと処方箋通り薬を飲んでいるか、という意味です。

図84
抗てんかん薬の副作用についてですが、全ての薬で眠気とふらつきが起こりえます。また、CBZ(カルバマゼピン)、ZNS(ゾニサミド)、LTG(ラモトリギン)については、発疹の副作用が有名です。私の場合、図のような説明を処方する際にすることが多いです。

図85
また、LEV(レベチラセタム)、PER(ペランパネル)、ZNS(ゾニサミド)については、
気分がイライラしたり落ち込んだりする可能性があることを伝えておくといいでしょう。前もっていう必要まではないですが、処方した次の外来で尋ねることをお勧めします。

図86
その他の副作用を列記しました。精神科医であれば、てんかん専門医を目指していなくても、これぐらいは知っておいてほしい、という副作用です。

図87
治療の最終ゴールをどこに置くかは難しい問題です。本来なら、発作ゼロを目指すのが当然ではあるのですが、人によっては、SPSぐらいなら「症状あっても生活に差し支えないから平気。それよりも薬が増えるほうが嫌だ。」と言う方もいらっしゃいます。そうなると、医師としても薬を増やしてまで発作ゼロ!という方針を強制するわけにもいきません。運転さえ諦められれば、それもありなのかもしれません。また、認知症や障害者の施設で暮らしている方にも同様の方がいます。

図88
また患者様から「将来的に薬をやめられるのか?」という質問をよく受けますが、それも人それぞれです。私は特に若い方には以下のように説明します。「一般的には5年発作がなければ薬をやめてみてもいいと言われています。でも、3割ぐらいの人が再発する可能性があります。そうなったときに、5年後のあなたがどういう人生を生きているかにもよりますよね?大学生かもしれないし、就職しているかもしれないし、結婚して子供もいるかもしれない。そういったときに、例えば、職場で発作が起きたら、まわりに迷惑をかけてしまうかもしれないし、本来、あってはならないことだが差別を受ける可能性もある。発作が起きたら運転免許も2年禁止になってしまう。そういった再発した時のリスクを考えて、辞めるかどうかはご自身で判断してもらうことになります。」

このように、答えのない問題ですので、患者様本人の価値観、人生観も含め決断してもらうことになります。運転ひとつとっても、「別に免許がなくてもいい」という人から「運転だけはできないと困る」という人まで様々です。ただし、JMEの方は例外で、再発率が高いのがわかっていますから、薬をずっと飲むことを勧めることが多いです。

ここまで治療について書いた通り、てんかんの薬物療法は基本的には発作がゼロになるまで、薬を淡々と増やしたり変えたりする(ただし、焦点性てんかんか全般てんかんか見極めてうえで効きそうな薬を選択すること!)だけです。しかし、医師が相手にしているのは、てんかんではなく、てんかんという病気を持った生身の人間なのです。それぞれの人生にあった提案を医師と患者で話し合い、お互い納得しながら診療を勧めていく、というのがてんかん診療の一番大切な部分ではないか、と個人的には考えています。ここまで読んでくれた方なら、少しは分かってくれると思うのですが、内科、外科をはじめとした医師の様々な診療科において、このような患者様の人生そのものと向き合うというスタンスに最も慣れている科というのは精神科だと私は思います。細かいところはまた別な機会に解説しようと思いますが、精神科医こそてんかん診療に向いているのです。少なくとも精神保健指定医や精神科専門医を取得された人なら、てんかん診療はあと少しの努力で身に付けることができます。精神科診療とてんかん診療は診断や治療、患者様との向き合い方など共通する部分がとても多いのです。精神科医である私が言うのだから間違いありません!若い精神科医の先生方、てんかん専門医を目指しましょう!


DR.BRIDGE|クリニックホームページ作成クリニックホームページ制作
  • 048-783-3302048-783-3302
TOPへ