➁てんかんの症候学
~てんかん診療医の方へ~

➁てんかん症候学について

図10
図10の通り、てんかんの焦点性発作において、脳のある一部が異常興奮すると、その興奮した場所に応じた症状が現れます。まずは、これを覚えましょう。覚えましょうと言っても、これが多岐にわたり、かなり大変なのですが…。個人的にはここが一番てんかんの勉強でツラいところです。初学者の方は、こんなものかという感じでざっと読んで構いません。

図11

図12

図11、12は上述した部分と全般、特発性と症候性を説明したスライドです。図6のところで説明しましたね。

図13
焦点性(部分)発作の説明を始める前に、まずはてんかん発作の最低限覚えなければならない用語を説明していきます。上記のような3つの発作に分かれます。ざっくり言うと、SPS(略語は図13を参照)は意識が保たれている発作です。なので、患者様本人も症状に気づくことが多いです。それに対して、CPS、GTC(強直間代発作はきょうちょくかんだいほっさ、と読みます)は、意識を失います。GTCはてんかんと聞くと、みなさんが真っ先に思い浮かぶ発作ですね。全身がガクガクけいれんする発作です。CPSは実はとっても大事な発作であり、内側側頭葉てんかんでよくみられる発作です。ボーっとして動きが少ない発作ですので、見過ごされることもあります。ここまで解説しても申し訳ないですが、本当は2017年にてんかん学における用語の改定があり、今は厳密にはSPS、CPS、GTCと言った言葉は用いられません。しかし、実臨床の現場レベルではまだまだ使われていますので、このホームページではこの用語で説明していきます。ご了承ください。

図14
これは非常に重要な図です。てんかん発作の時間をおおよその持続時間を知っておくことは鑑別診断において非常に重要です。まず、SPSですがだいたい1,2分です。患者様は「あれ、へんな症状があるぞ、おかしい」と思っていたら、1分ぐらいで治まって、「何だったんだろう?」と思うのが通常です。CPSについては、2分前後です。ただし、CPSが終わった後に、発作後もうろう状態という、寝ぼけの強いバージョンのような状態が起こります。もうろう状態の時、近くにいる人が「大丈夫?」と声を掛けても、本人は「うん」ぐらいは返答できるかもしれませんが、複雑な質問には答えられないの普通です。もうろう状態は、数分の場合もあれば、人によっては数時間続く時もあり、かなり個人差があります。次にGTCです。グーっと全身に力が入っている強直相が1分ぐらい続いた後に、ガクガクガクガクと震える間代相が1分ぐらいあり、全部で2分前後で治まることが多いです。目が上を向き、口から泡を吹くこともあります。CPSの場合と同様、GTCの後にも発作後もうろう状態がきますので、注意が必要です。5分以上けいれんが続いているときは、てんかん重積状態であり、様子を見ていても発作が止まらない可能性が高いので、早急に治療が必要です。

Column:「バージョン?」

このてんかんの解説のページを私が作っているときの出来事です。私は、以前私にてんかん臨床を指導していただいたA先生に、このページの原案を見てもらい、添削してもらいました。そこでの一幕です。

A先生:

児玉先生、この図14の説明のところだけど、「CPSが終わった後に、発作後もうろう状態という、寝ぼけの強いバージョンのような状態が起こります。」っておかしいよね?

私:

え・・・・?どこかおかしいでしょうか?

A先生:

普通はCPS後にバージョンはしないでしょ?

私:

(数秒考えて)ああ・・・。たしかに・・・。紛らわしい表現ですね。僕としては、バージョンというのは、楽曲のアレンジバージョンとか○○版って意味で書いたつもりだったんですが…。失礼しました。

A先生:

あ、そういう意味なの。じゃあ、いいよ。

今このページを読んでいるみなさんはどこがおかしいかわかりますか?どこがおかしいか分かった方は、このページを読むのをやめて、すぐにてんかんのもっと詳しい教科書を読み始めていいと思います。
答え合わせです。図21で説明しますが、バージョン(version)には、てんかん学的には向反という意味もあるのです。向反というのは首など体の一部が回っていくことを表しています。てんかんが専門のA先生は、○○版という意味でのバージョンではなく、真っ先に向反発作としてのバージョンを思い出したのですね。以上、てんかん専門医同士でしか伝わらない話でした。

図15
さて、やっと焦点性発作の話です。簡単に言うと、図15のように、てんかんの異常興奮が頭のどこで起こるかによって、出てくる症状が違うわけです。脳は一般的に図のように前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉に分けられます。図でいうと、側頭葉でてんかん発作が起こると、腹痛が起きたり、後頭葉でてんかん発作が起こると、視界にピカピカしたものが見えるといった症状が起きたりするわけです。それでは、それぞれについて説明していきます。

図16
側頭葉には内側と外側の二つがあります。てんかんで大事なのは内側の方です。詳しくは述べませんが、内側というのは海馬などの文字通り、脳の表面から見えない内側にある構造物を指します。図に示したようなSPSが現れます。SPSですので、患者様本人が「こんな症状がありました」と訴えてくることがあります。先ほども説明しましたが、持続時間は1分前後です。デジャウというのは初めて訪れた場所なのに、なぜか以前来たことがある感じがするという症状です。健康な人でも起きる症状です。ジャメビュはその逆です。ちなみに変なにおい、変な味というのは、もっというと嫌なにおい、嫌な味です。

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図17
これは内側側頭葉から起こるSPSの動画です。動画で見るとわかりやすいですね。

図18
さて、内側側頭葉でてんかん発作が起こると、CPSを起こすこともあります。ざっくりCPSといったら、内側側頭葉と覚えて構いません。ポイントは上から下に矢印が伸びていますが、これは時間の経過を表します。つまり、ボーっとして1点を見つめたと思ったら、手をもぞもぞと動かし始め、そのうちに、手が固まり、発作後もうろう状態に移行する、といったイメージです。もちろん発作中のことは患者様本人は覚えていません。自動症というのは、読んで字のごとく、勝手に動いてしまうことです。手の自動症だったら、自分の顔を触ったり、来ている服のボタンをはずそうとしたりします。以前、私の女性の患者様では、仕事中にCPSを起こし、無意識のうちに自分の着ているスカートをたくし上げてしまったという方もおられました。これも自動症の一種です。ポイントはこの手の動きはあまり激しくなく、もぞもぞといった感じの動きになります。口部自動症は、口をもぐもぐ、ぺちゃぺちゃさせる症状です。歩行自動症は、ぼーっとしたまま歩いて行ってしまうという症状です。やはり私の患者様ですが、散歩中に踏み切り待ちをしているときにCPSを起こし、線路に立ち入ってしまった方もいました。目撃者により保護され、大事には至りませんでした。手のジストニー肢位は難しいので、手が変な格好で捻じ曲がる、ぐらいのイメージでいいと思います。以下は、てんかん専門医を目指す人向けの解説ですが、図にもあるように、例えば、右手がジストニー肢位になったら、反対側の左の側頭葉が興奮しているということができます。このように、ある症状が出たら、左右どっちの脳で発作が起こっているという症状のことを側方徴候と呼びます。てんかん専門医を目指さない方は、覚えなくても構いません。さて、再度簡単な話に戻ります。先ほどもCPSの後には、発作後もうろう状態が続く、と何度も説明し、さらに、その時間には幅があるのでしたね。ちょっと覚えておいてほしいのですが、高齢者になると、発作後もうろう状態が長いと数日続く方もいらっしゃるということです。なぜ大事なのかというと、一言でいうと、この発作後もうろう状態をみて、家族が認知症になったと思い込み、受診する人がいることです。例えば、夕方5時におばあさんが一人で家にいる時にCPSをおこし、2分後に、発作後もうろう状態となり、それが持続していたとしましょう。夕方6時に娘が仕事から帰ってきて、母親がいつもと違う様子に驚きます。声を掛けても生返事で、なんだかはっきりしません。だれも夕方CPSが起きたことなど知りません。そして、そのまま夜までなんだかボーっとした状態が続きます。家族としては心配になるわけです。私自身、何人もそのような方を経験しています。極端なケースだと、他の医師が既に認知症と診断し、認知症の薬を処方してから、私に紹介してきた患者様もいらっしゃいました。認知症の薬をやめ、少量の抗てんかん薬で病状は改善し、感謝されました。もちろん認知症ではありません。ご存知かもしれませんが、認知症というのはある日突然、急激に始まることはなく、徐々に進んでいきます。それこそ、半年、1年のスピードで進むのが一般的です。数日で認知症が出来上がることはまずありえず、他の診断を考えることになります。

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図19
CPSの動画です。百聞は一見に如かずです。動画は分かりやすくていいですね。このような教材がもっと手軽に手に入ると、医師や国民のてんかんに対する意識がもっと高まると思うのですが

図20
次は外側の側頭葉です。側頭葉は聴覚をつかさどると言われており、てんかん発作でもそれに似た症状が出ます。この図の二つの発作はどちらもSPSです。幻聴は人それぞれです。ブザーのような音が聞こえたり、人の声が聞こえたりする人もいます。ポイントはやはり持続時間。1分前後です。急に聞こえ始め、急に止みます。そして、患者一人につき、ほぼ決まった内容の幻聴が聞こえます。つまり、ブザー音の幻聴の人はいつも同じような音が発作の症状として聞こえます。これは非常に重要です。今後も繰り返し述べますが、一患者個人においては、持っているてんかん発作はほぼ一定なのです。一患者が、ブザーの音が聞こえたと思ったら、次の発作では人の声だったということは極めてまれです。ある人はブザーの音が聞こえる発作を持ち、別のある人は人の話し声がする発作を持っているというイメージです。次に、言語理解の発作もあります。SPSであり、意識は保たれているのに、急に他人が何を言っているのかわからなくなる、という不思議な症状です。医師の方も、知らないとてんかん発作とは思いつきません。音としては認識できるけど、意味が取れなくなる、と訴える方が多いです。もちろんこれの持続時間も1分前後です。

図21
次に前頭葉の発作です。じつは前頭葉の発作はかなりたくさんあるのですが、難しいので、代表的なものだけ、図にしました。まず、SPSです。向反発作と言って、二次性全般化(後で詳しく説明しますが、全身けいれんの発作と思ってください)の直前におこる、首が回っていく発作です。側方徴候の話をすると、右に首が回転していったら、それは左の前頭葉の発作です。回っていく方向と逆側に発作の出発点(焦点というのでしたね)があるわけですね。また、前頭葉の運動野という運動をつかさどる部分が興奮すると、左か右の一方の手足がピクついたり、グーっと力が入ったり(強直と言います)します。その後、トッド(Todd)麻痺といって、動いた側の手足に脱力を残すこともあります。自然に回復しますが、長いと回復に数日かかることがあり、その場合、回復するまで入院が必要になることもあります。また、前頭葉の発作でCPSを起こすこともあります。先ほど、CPSといったら、内側側頭葉と解説しましたが、ひとつだけ例外を覚えてください。なぜかというと、これも医師がこの発作を知らないとまずてんかんと思いつかない発作だからです。寝ているときに起こることが多く、ドタバタジタバタ激しく動き回ります。体幹をひねるような運動や自転車をこぐような運動をすると言われます。1分ほどで終わり、発作後もうろう状態が短いのがポイントです。発作が終わったと思ったら、すぐにシャキッとして、会話が成り立ちます。内側側頭葉のCPSは、手ならモゾモゾ、口ならモグモグといった静かな動きでしたね。しかも、発作後もうろう状態が長く、発作後もボーっとしていて高齢者だと認知症と間違われる場合もあるのでした。

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図22
片方の足がぐっと強直する発作です。

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図23
前頭葉のCPSです。一度見ると忘れません(!?)。医師の方々は決して心因性(ストレスで起きるという意味。昔でいうヒステリー)と診断しないでくださいね。

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図24
難しいので解説はしませんでしたが、前頭葉の補足運動野というところに発作が起こるとこのような症状が起きます。てんかん専門医を目指す人だけ覚えてください。

図25

図26

さて、先ほど二次性全般化という用語が出てきました。大事な概念ですので、ここで説明します。図25、26を見てください。焦点性発作(部分発作)は、脳のある一部から発作が始まるのでしたね。発作とは脳の異常興奮でした。ところで、脳の興奮とは何でしょうか?細かい話をすると、脳の興奮というのは、小さな脳細胞の電気的活動の集合体なのです。大事なことなのですが、この発作、つまり、異常な脳の電気活動は火事が燃え移っていくかのように、徐々に移動していきます。これを伝播するといいます。脳のある特定の部分だけが、興奮し続けるというのは例外的です。そして、脳の反対側に興奮が伝播した時を二次性全般化(sGTC)と呼び、患者様はこのときGTCを起こします。要は、ある一部で発作が始まっても、それが両方の脳に飛び火した時点で全身けいれんをおこしてしまうわけです。私の経験上ですが、SPSで症状が始まったとして、発作が治まらないと、大体3分以内にsGTCになってしまいます。言い換えると、てんかんなら、SPSやCPSを1~2分起こして終わるか、最終的に全身けいれんを1~2分起こして終わる、かのどちらかなのです。繰り返し説明しますが、持続時間がだいたい決まっているのです。なので、私の外来に「手だけぴくつきます」という患者様がいて、「どのくらいの間、ぴくついてますか?1分、10分、1時間のどれに近いですか?」を質問した時に、「1時間」と答えたなら、てんかんではない可能性が高いと判断するわけです。本当のてんかん発作が脳のある一部から始まって1時間もたっていれば、とっくにsGTCをおこし、全身けいれんしているはずですよね?てんかん診療では、このように持続時間を覚えておくことで、誤診のリスクを減らせるのです。

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図27
二次性全般化の動画です。顔が右に向反していってから全身けいれんになっているので、発作の電気活動としては、左前頭葉で始まった発作が右側にも伝わり、二次性全般化をおこした、というストーリーが理解できるでしょうか?

Column:

けいれんという言葉は、非常に便利であいまいな言葉です。てんかん専門医は「けいれんした」と聞くと、「どのような動きでしたか?」と必ず聞きます。患者様や家族は「手がひらひら動いていた」「腕を上下に振っていた」「足を曲げたり伸ばしたりしていた」など様々な運動症状を「けいれんした」と表現するのです。私の場合、駆け出しのうちは、例えばGTCの場合、口で説明して、「グーっとなってからガクガクするけいれんでしたか?」と聞いていましたが、ある日、あるてんかんの教科書を読んでいると、とてもいいことが書いてありました。患者様や家族の目の前で発作の真似をしろ、という内容でした。そして、てんかんの診断がうまい医師は発作の真似がうまいとも書かれていました。私はなるほどと思い、ビデオ脳波モニタリング(ビデオと脳波を同時に記録する入院で行う検査)で記録された実際の発作場面をしながら、ひたすら発作の真似を練習しました。すると、どうでしょう?口で問診するよりも、医師が発作の真似をやって見せたほうが患者様にも伝わるのです。これはGTCだけでなく、CPSでもそうです。おそらくですが、真似したほうが誤診のリスクも低くなるような気がします。私がCPSの真似をし、ボーっとして1点を見つめ、口をもぐもぐすると、家族が、「そう、それです!全く同じです。」と言われたことがありました。てんかん専門医冥利につきる瞬間です。

図28
後は、後頭葉、頭頂、その他で起きるてんかん発作です。後頭葉は視覚をつかさどります。よって、目の症状がメインです。SPSとして、単純な幻視があります。目の前に無いはずのものがみえるのです。それは、点だったり光だったりします。ポイントは時間が1分前後と短いことです。また、一患者においては、やはり症状は一定です。ある患者様が「青い光が右上に見えて、それが右下に移動しながら赤色に変わっていくんです」と言ったら、いつも同じ幻視の発作がおきるはずです。ちなみに、片頭痛の患者様でよく閃輝暗点(せんきあんてん)といって、目の前にギザギザ模様が見えることがあるのですが、これは15分前後続くと言われています。全然持続時間が違いますよね?もしこれがてんかんの発作なら、とっくにsGTCをおこしていますよね。さて、もう一つの発作は、厳密には側頭葉の発作なのですが、患者様が幻視のように訴えることがあります。
後頭葉の発作の単純な幻視とは違い、イメージに近いものがあります。「オリジナルのキャラクターがおどっている」「蜂の巣がぐるぐる回っている」といった発作を実際に患者様が聞いたことがあります。目の前に見えるわけではなく、頭の中に浮かぶのだそうです。

図29
頭頂葉の発作は図29のようになります。これまでと同様、てんかん患者の一個人においては、いつも同じところ(例えば、右手だけ、とか左足だけとか)がピリピリするのが特徴です。

図30
こんなてんかん発作もあります。てんかん発作の多様性が理解できたかと思います。やはりてんかん発作であれば、1分ぐらいで治まる、または二次性全般化して終わる、というコースを辿るのが特徴です。

図31
てんかん性の興奮は伝播していき、その興奮の経路は患者一個人において一定であることはこれまで述べた通りです。なので、例のように、発作の進展とともにA→B→Cのように順序良く症状が起きます。例は、内側側頭葉てんかんの人のケースです。後述するように本当は内側側頭葉てんかんの方がsGTCを起こすことは珍しいのですが、説明のためと割り切って読んでください。内側側頭葉のSPS(A)→内側側頭葉のCPS(B)→二次性全般化(C)という順番です。これが、一個人において、A→B→Aと行ったり戻ったりすることはありません。てんかんの異常興奮は一方向にどんどん伝わっていき、伝わった先の脳と対応する症状がどんどん出てくるわけです。そして、Aに関連する箇所で異常興奮が勝手に立ち消えになってしまえば、Aの発作だけが出て、終わりです。つまり、患者様の自覚としては、「うう、気持ち悪い・・・」→1分後、「あれ、治まったぞ?」となるわけです。興奮がAからBに関連する箇所まで行って、そこで異常興奮が終われば、やはりA→Bの症状が出て、発作は終わりです。患者様の自覚としては、「うう、気持悪い・・・。→(CPSが起こり意識を失い、この間の記憶はない。)→あれ?今私気を失ってた??気持ち悪くなったところまでは覚えてるんだけどなぁ」という感じです。なので、患者様の訴えとしては、「まず、気持ち悪くなったところまでは覚えているんですけど、そのあとのことは覚えてません。気づいたら、母が『大丈夫?』と私をさすっていました。」という感じになるわけです。ちなみに、A→B→Cまで行くとするなら、同様に患者様の訴えとしては、「気持ち悪くなってきたところまでは覚えてるんですけど、気が付いたら救急車の中でした。母が言うには、急に黙り込んだ(CPSのこと)と思ったら、その1分後ぐらいにけいれんした(sGTCのこと)みたいで・・・」となります。

図32
要は焦点性発作というのは、異常電気の一方通行の流れであり、その流れた先に対応する症状がどんどん誘発されていくということを言いたいわけですが、非常に大切なので、しつこく図32でも解説します。上の例だと、左手が強直(グーっと突っ張ること)するのは、右の前頭葉の症状です。そして、右の前頭葉で始まった異常電気が左側にも伝播した時点で、sGTC、つまり、全身けいれんを起こし、発作は終わります。このような患者様がいた場合、この患者様においては、右の前頭葉だけが興奮してそこで興奮が終わってしまった場合は、左の強直が起こって、患者様が「あれ、左手が勝手に・・・。おかしい・・・」と数十秒思っているうちに、症状は止まってしまい、「なんだったんだ、今のは?」となるわけです。下の例だと、左の後頭葉から始まった発作が、内側側頭葉に伝わり、吐き気のSPSを起こし、さらに、同じ個所でCPSまで起こすという流れです。途中で立ち消えになるのはOKですが、患者一個人において、吐き気が先に来て、次に右の視界がチカチカというのは通常あり得ません。「前回の発作は右の視界がチカチカしてその次に吐き気がしたんですけど、昨日の発作では、順番が逆でした」と言う患者様がいたら、私は「てんかんっぽくないな」と頭の中で考えるわけです。ここまでで焦点発作についての解説はおしまいです。大人のてんかんを診察するうえでは、どうしても避けては通れない話でした。

ちなみに、追加で覚えておいてほしいのですが、成人てんかんの患者一個人において、これまでになかったてんかん発作が突然加わるといったことも稀です。右手の硬直→sGTCという発作を持つ患者様が急に「おなかが痛くなることもある。これも発作なのでしょうか?」と診察で言ってきても、それがてんかん発作である可能性は低いです。例外は色々あるのですが、大人のてんかんにおいては、一人の患者はいつもの順番でいつもの症状を起こすワンパターンなてんかん発作しか起こさない!ととりあえずは理解していいと思います。

図33
次は全般発作(脳全体が一気に異常興奮する発作でしたね)についてです。有名なのは、欠神発作とミオクロニー発作です。欠神発作については、医師であれば、必ず医師国家試験の勉強をしたときに、脳波所見とセットで覚えたはずですのでいいでしょう。残念ながら、子供のてんかんで多くみられ、大人のてんかん診療ではあまりお目にかからない発作です。大事なのはミオクロニー発作です。両方の手がぴくっとするわけです。後ろから急に「ワッ!」と言っておどかされたときに、体が一瞬びくっとなりますよね?そんな感じで一瞬の発作です。この時に、よく手に持っているものを落とします。落とすのは箸だったり、スマホだったりします。

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図34
このように一瞬の発作です。意識は保たれます。


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