第19回です。今回はうつ病の原因について解説していきたいと思います。まずは、一般的なことを説明し、その後、当院におけるうつ病の特徴について書いていきたいと思います。
一般的なうつ病の原因。環境編
まずは本人を取り巻く社会的要因があげられるでしょう。以前も書いたような気がするのですが、よくあるのは、「中年男性が出世した。部下も増え、責任も増えた。上司からの期待も増え、部下の管理にも悩ませることが多くなり、さらに、そんな状況で結果を出さないといけないプレッシャーを強く感じるようになってきた。悩んでいるうちに落ち込んできた。」「専業主婦の女性が、引っ越しをした。子供がまだ小2で小さく、新しい学校になじめるか不安。また、本人自身もママ友や近所のお付き合いができるか緊張していた。それとともに、徐々に気分が落ち込んできた。」といったパターンです。正式な医学用語ではないですが、「出世うつ」「引っ越しうつ」と言われたりします。もちろん、人間ショックなことがあると、うつ病になりやすいものです。職場や学校でいじめにあったときも、うつ病になりやすい状況と言えます。しかし、全く環境に原因がないのに、急に落ち込むというパターンもあります。必ずしも原因があるとは言えないのです。逆に言うと、例えば、パワハラやいじめがあったからといって、それが原因でうつになるかどうかは個人の打たれ強さが関係してきます。なので、私の場合、診断書には、「〇〇(ストレス原因)のせいでうつ病になった」とは書きません。〇〇のせいかもしれないし、〇〇がなくても、うつ病を発症した可能性も否定できないからです。
一般的なうつ病の原因。身体疾患編
身体疾患により、うつ病を起こすこともあります。例えば、脳卒中後に抑うつ状態になる人がいます。他にも、甲状腺の病気やステロイドなどの治療薬によってうつ状態になることもあります。私はあまり経験はありませんが、エイズや膠原病がうつの原因ということもあります。また、私はてんかん専門医をもっており、当院にもてんかんをもつ患者様がたくさん来院されているのですが、てんかんを長年患っていると、うつっぽくなる人も多いです。普通のうつ病の人と違い、てんかんの人のうつは抗うつ薬があまり効かないイメージであり、治療に難渋することもあります。最後に、身体疾患ではありませんが、産褥うつ病も大切です。マタニティブルーという言葉は聞いたことがあるでしょうか?産後に気分が滅入ってしまうことです。それがとても強くなると、産褥うつ病となり、場合によっては、精神科に入院が必要になるぐらい死にたい気持ちが強まったりします。精神科医にとっては、とても重要な疾患です。
当院でのうつ病
最後に当院でよく見るうつ病の特徴をあげていきます。それは、症状が軽いことです。当院だけでなく、メンタルクリニック全体の特徴ともいえるかもしれません。うつが重い場合、入院の検討も含め、すぐに精神科の単科病院に紹介状を書いて行ってもらうこともあります。ただ、難しいことに、「うつが軽い=治りやすい」「うつが重い=治りにくい」と、一概には言えないのです。例えば、職場で仕事量が多く精神的に追い込まれて、当院を受診し、軽度のうつ病(適応障害といってもいいかも)と診断されたとしましょう。治療としては、抗うつ薬の投与と休養が大事です。しかし、軽度なゆえに、患者様本人も仕事を休みたがらず、無理してしまう傾向があるのです。さらに、会社の人や家族も、そこまで深刻にとらえずに、本人に負荷をかけ続けることもあります。その結果、うつがなかなか治らなかったり、重症化をしたり、といったことを良く経験します。
今回はうつ病の原因について、解説しました。うつ病には、原因が割とはっきりしているものと、よくわからないものがあります。じっくり経過を追いながら、治療をしていく必要があります。