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第16回 患者が治るとは

第16回です。今回は「患者が治る」とはどういうことか、ということについて書いていこうと思います。私は、精神科医としての駆け出しの時に、上級医に教えてもらったことをそのまま実践しているので、それについて説明します。もちろん、これが正解だ!ということはありません。いろんな考え方があっていいと思います。

患者を治すのか、治るのか

精神科に限らず、最初に初期研修医になったときに、私が教えてもらったのは、「医師は患者を治すのではなく、患者が自ら治るのを手助けするだけだ」ということです。例えば、肺炎になったとします。医師は、抗生剤を使ってバイ菌を殺すような治療をします。でも、最後に、モノを言うのは患者様自身の治癒力、免疫力です。現在の医学では、どんな病気も確実に治すような特効薬というのは存在しません。せっかく薬を処方したり、生活指導をしても全く聞き入れない患者様もこれまでにたくさん見てきました。糖尿病で医師から節制をするように言われても、好き勝手な食生活を続け、人工透析になったり、脳出血を起こした患者様。アルコール依存症で医師から断酒を勧められても、通院が途切れて、大量飲酒を繰り返した末に、ある朝、布団で突然死していたのが見つかった患者様。本当にいろんな人を経験してきました。医師としても無力感にさいなまれることもあるのですが、私としては、「私ができることを淡々するのみ」という気持ちで診療にあたっています。例えば、当院の特性上、受診しない患者様は治せません。訪問診療をやっていないからです。調子が悪くて、受診が不規則になりがちな患者様もいますが、なかなか治療がうまくいかないことが多いのが実情です。あまりに重症な場合は、私から「もっと大きな精神科病院に病院を変えたほうがいい」と促す場合もあります。しょっちゅう入退院を繰り返したり、認知や知的な問題があり周りに支えてくれる人が少ない方などです。治せないと分かっているのに、当院で治療をし続けるのも、患者様のために不利益になると考えているからです。中には、薬を飲んだり飲まなかったりで、毎回、私から「ちゃんと飲みなさい」と指導(説教?!)されてもあまり守れない人もいます。しかし、その中でなぜか通院は定期的に続けてくださっている人もいるのです。患者様自身が当院に受診しても治らないと思ったら、普通は受診が途切れると思うのですが、きっとその患者様の中で当院に通うこと自体が、何かの治療的効果があると感じているから、受診を継続してくださっているのでしょう。

患者と医師の適切な距離感とは?

上記のように、私としては「治してあげている」ではなく、「患者が治るのをそっと後ろから手助けしてあげている」と考えています。あくまで、治療の主役は患者様本人です。なので、私としては、当たり前ではありますが、患者様をできるだけ平等に扱うようにしています。なるべく敬語で話し、一部の患者様だけを特別扱いはしないようにしています。あまりに距離感が近くなると、患者様も「先生~、聞いてよ~」となり、医師としても「それはヤバいね。薬出しとくからさ。ちゃんと飲んでよ」と馴れ馴れしくなってしまい、治療というものに対する真剣みが失われる危険があると考えるからです。なので、私のことを若干ドライに感じる患者様もおられるかもしれません。私としては、なるべくどの患者様にも一定の態度で臨むようには心がけています。患者様はいつかは医師のもとから卒業します。私だって、いつまで元気かわからないし、大病や交通事故などで突然医師を続けられなくなるかもしれない。そんな時に、「児玉先生にしか治せない患者」では、患者様自身が困るのです。最終的には、病気を持っていても、自分の人生は自分の足で生きていかなければいけません。

今回は以上になります。お互いしゃっきりした関係性で治療していきたいものです。私とは真逆の考え方も精神科医もいますので、どちらが正しいということはありません。

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